02.「食道がん」の危険因子は「アルコール」と「たばこ」です! ~『予防する医療』への意識改革を!その2~
「がん」は年齢と共に増えて行き、現在生涯のうちに2人に1人はがんにかかる時代です。高齢化社会にとってがんは避けられない病気であり、がんを良く知ることは心身ともに健康な生活を送るうえで大切です。
今回は「食道がん」を取り上げます。
「食道がん」は、胃がんや大腸がんに比べると少ないがんですが、発見された時点で現在70%が進行癌で見つかり、手術をすると首・胸・腹にまたがる非常に大きな手術になってしまいます。また手術以外の治療法として、放射線治療と抗がん剤治療を同時に行う方法がありますが、これもかなりつらい治療です。しかも食道がんは比較的早期のうちから転移が起こってしまい、非常に治り(予後)が悪いのです。
「胃がん」の原因のほとんどが「ピロリ菌」であったように、「食道がん」の原因のほとんどは「アルコール」だとわかっています。さらに「たばこ」を吸うことでいっそう危険性が増します。
とくに飲酒により「顔が赤くなる人」、または「以前は赤くなった人」が毎日のように多量に飲酒をしていると食道がんの危険が高くなり、ウイスキーや焼酎といった濃いアルコールをストレートやロックなど濃いままで飲むことでさらに危険を高めます。
アルコール(エタノール)が体の中でどのように変化するのかが重要なのですが、アルコール(エタノール)は、まずアルコールを分解する酵素である「アセトアルデヒド」に変化し、さらに別のアルデヒドを分解する酵素で、無害な「酢酸」にまで変化します。このうち、途中のアセトアルデヒドという物質には毒性および発がん性があり、赤くなったり酔っ払ったりするのもこのアセトアルデヒドの作用です。
アルデヒドを分解する酵素の力が遺伝的に弱い人が「酒で顔が赤くなり」、「食道がんになりやすいタイプ」なのです。
欧米人ではこのアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い人はほとんどいないので、みんなが酒に強く、日本人に多い扁平上皮がんの患者さんはほとんどいないのですが、日本人の約40%もの人がアルデヒドの分解酵素の働きが弱く、このような人はアルコールを多く飲むと食道がんの危険が高くなってしまいます。
また、いわゆる「下戸(げこ)」というお酒が全く飲めない人が約5%(20人に1人)ほどおられますが、この人はアルデヒドの分解酵素の働きが全くない人で、そもそもお酒を受け付けないため、結果的にはほとんど食道がんにはならないのです。
アルコールの弱い人、飲めない人の見分け方として、日本で初めてアルコール依存症専門病棟を立ち上げた久里浜医療センターのアルコール科が公開している問診票があります。
また、同センターのドクターが考案されたアルコールパッチテストも効果的で、消毒用アルコール綿を二の腕(上腕)の内側に貼り付け、7分後にはがします。はがした時に皮膚が赤い人はアルデヒドの分解酵素の働きが全く無くて、アルコールが全く飲めない人。10分後に皮膚が赤くなる人が、アルデヒドの分解酵素の働きが弱く、食道がんになりやすい人。はがした直後も10分後も全く赤くならない人が、分解酵素の働きが正常で、普通にお酒が飲める人というように判定します。
食道がんになりやすい人は、同時に口の中のがん=咽頭がんにもなりやすいということがわかっています。
この問診票やパッチテストで「食道がん」の危険が高いと判定された人は、飲酒・たばこを控え、定期的な胃カメラ検査を行うことで、内視鏡で切除可能な早期のうちに食道がんを発見して完全に治すことを心掛けましょう。
「胃がん」「食道がん」で苦しんだり、死亡に至ったりする危険を減らすために、20歳以上の住民全員が「胃ABC検診」を、40歳以上の日頃飲酒をされる方全員が「食道がん問診表・パッチテスト」を受けることが望まれます。
(「くすぐる診療所」2012年5月号より改訂)