019.『予防する医療』への意識改革を!その15「ささえる医療」に日本の将来像を見る
現在日本では、少子高齢化の進行、医療費の増大、国の借金の増大が大きな問題となっています。それを解消するために消費税増税や、後期高齢者の医療費負担増などの対策が出されています。しかし、10年後には団塊の世代が後期高齢者となり、このままの状況では医療・社会福祉費が非常に増加すると予想されます。
この様な医療財政の危機に対し、光明と言えるようなある地域医療が注目を浴びています。2006年に財政破綻した北海道夕張市の医療財政を立て直し、住民の健康と安心を取り戻した、村上智彦医師らが実践している「ささえる医療」です。
詳しくは村上医師の『医療にたかるな』(新潮新書)というセンセーショナルなタイトルの本を読んで戴ければ解るのですが、高齢者に対してこれまでのようにあくまでも「治癒=キュア」を目指した高度医療だけではなく、地域医療の中心を予防医療と看護や介護などの「ケア」に移行し、その地域住民が主体となって健康意識を向上させ、風土に合った包括医療を実践することで、住民が自助努力で健康を獲得し、結果として医療費が抑制されるというものです。
村上医師の筆致は辛辣で、これまでの行政・医療者・患者=住民全てに対して、その甘えやごまかし体質に「ノー」を突きつけます。不健康な生活をしていたために病気になり、病気になってから高度医療に頼るという意識のままでは医療費はかさむ一方で且つ健康も得られません。そもそも病気になりにくい様に自らの健康意識を高め、健康に対する正しい情報を得て生活習慣を改める努力が各人に必要だという訳です。そして医療者の役割は患者さん=住民の健康を「ささえる」ことで、行政・住民と一体となって「健康意識」「予防医療」の浸透を目指した「町作り」をサポートすることだと言うのです。
この様に日本の医療の将来を予見している村上医師の先見の明と行動力、情熱には脱帽させられます。是非みなさんも自分たちの町・地域がより暮らしやすく、末永く安心で健康に過ごせるようにするにはどうしたらよいか、じっくりと考えてみてください。
(「くすぐる診療所」2013年10月号より改訂)