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024.「胃ろう」の話-その1

 皆さんは「胃ろう」をご存じでしょうか?
 
 病気で口から食事が摂れなくなった時、胃ぶくろに穴を開けてチューブを入れておき、食事の時にそのチューブから流動食や寒天状の栄養剤を流し入れる人工栄養法の一つです。
 脳梗塞や心筋梗塞などで寝たきりになり、のどの動きが悪くなって誤嚥(ごえん=間違って食べ物を肺に飲み込んでしまう)する高齢者に胃カメラを使って作る方法が一般的です。胃に直接栄養剤を入れて腸を使って消化吸収するため、点滴よりもかなり多くの栄養が摂れ、免疫力もアップするため普及してきました。
 
 しかし最近胃ろうの問題点が指摘されています。2011年日本老年学会から声明が出されましたが、それは「胃ろうや人工呼吸器などの治療により、患者の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性がある時には、治療の差し控えや治療の撤退も考慮する必要がある」というものです。
 認知症や老衰の末期で寝たきりの高齢者が延命のために本人の意志も分からぬまま一様に胃ろうを入れられ、強制的に栄養剤を入れられるという現状に対して、それは本人の意に反しているかも知れないという疑問が出てきたためです。
 
 既に欧米諸国では、胃ろうは誤嚥性肺炎の予防にならず延命にもならないと考えられ、人間の尊厳を損なうものとして自然に死を迎えることが当然と考えられるようになっています。しかし欧米でもかつて10年以上前に日本と同じように胃ろうが多くの高齢者に作られた時代もあったそうです。しかし「死の尊厳」を考えたとき胃ろうは必ずしもハッピーな死を迎えることにはならないだろうと議論の末考え方が変わってきたのです。
 
 日本でも「平穏死」「自然死」など、終末期に点滴や胃ろうなどの栄養を行わない方がより自然に、しかも「楽な死」が迎えられるという考え方が広がってきました。何が最良の医療、最良の人生、最良の死の迎え方かは時代と共に変わって行くもののようです。


(「くすぐる診療所」2014年3月号より改訂)

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