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033.「感染症の話」その2

 今回は「真菌(しんきん)」についてです。真菌とはカビのことですが、真菌の細胞はヒトの細胞と同じように「核(かく)」と呼ばれるDNA遺伝子を入れた袋を持っています。これが核膜を持たない「細菌」とは大きく違う点で、より高等な生物の証しです。

 真菌による病気を「真菌症」といいますが、あまりなじみが無いかも知れません。しかしヒトの口や消化管の中、皮膚などには「カンジダ」という真菌が必ず存在しており、実はなじみが深いのです。

 このようにヒトの体に住み着き普段は病気を引き起こさない真菌や細菌の事を「常在菌(じょうざいきん)」と呼びます。しかし免疫力が低下した際にはこの常在菌が病気を引き起こす「日和見(ひよりみ)感染症」の原因となります。カンジダも普段は何の症状も起こさないのですが、免疫力が低下した時などに「カンジダ症」として様々な病気を発症してしまいます。

 その他にも「水虫」や「タムシ」「シラクモ」は「白癬(はくせん)菌」という真菌による感染症として有名です。しかしその治療は一般的にされているように患部だけに少し薬を塗っただけではなかなか治りません。例えば足の水虫なら両足の足首まで広い範囲にたっぷり薬を塗らないとなかなか治らないですし、爪白癬なら爪が完全に生え替わるまで飲み薬を数ヶ月間飲み続ける必要があります(*注9)。
 しかし真菌の中には食卓に上がる「キノコ類」や、パンやお酒を発酵させる「酵母」と言った人間の役に立つものも多くあります。

 最後にもう一つ人間の役に立った真菌の話です。1928年にイギリスのフレミングという医師が「ブドウ球菌」という傷から化膿を引き起こす皮膚の常在菌を研究していた時、偶然培養していたブドウ球菌の中に青カビが落ちてしまいました。しかしその青カビの周りのブドウ球菌が発育しない事を発見し「青カビから細菌の発育を抑える物質=抗生物質」が出ていることに気づいたフレミングは青カビの属名であるPenicilliumにちなんで「ペニシリン」と名付けました。
 その後フローリーとチェーンという科学者がペニシリンを抽出することに成功し、ペニシリンは第二次世界大戦で多くの負傷兵の命を救いました。1945年に世界で初めての抗生物質を作り出したこの3人にノーベル医学生理学賞が贈られました。

*注9) 最近ははけで爪に塗るタイプの爪白癬の塗りぐすりも登場しています。


(「くすぐる診療所」2014年12月号より改訂)

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