お知らせ

039.「熱」の話-その2

 熱が出る病気で最も多いのはやはり「感染症」ですが、教科書的にはほかにも「悪性腫瘍(がんや白血病、悪性リンパ腫など)」や「膠原病(こうげんびょう)」といった病気も発熱の原因として挙げられています。
 
 実際には悪性腫瘍でも腫瘍が小さい間は熱が出ない場合が多いのですが、感染症の症状に乏しく原因不明の発熱が続く場合には、感染症ではなく「悪性腫瘍」や「膠原病」という病気の検査もして行きます。

 悪性腫瘍の中では、白血病や悪性リンパ腫と言った血液の腫瘍で比較的発熱しやすいのですが、腫瘍そのものから発熱を促すタンパク質が出されたり、腫瘍細胞が急に大きくなる際に壊死(えし)を起こして、細胞死した後を免疫細胞が掃除をする際に発熱物質を出したり、さらにはどんな腫瘍でも進行してくると体力が低下し免疫力が落ちてしまって肺炎などの感染症にかかって熱が出る場合が多く、悪性腫瘍の発熱の原因は実に様々で診断は複雑です。

 一方「膠原病」という病気は、自分の持っている免疫細胞が暴走して制御不能となってしまう病気で、花粉症の時にお話ししたアレルギーに似ていますが、「関節リウマチ」や「SLE(エスエルイー)」、「シェーグレン症候群」などが代表的で多くの種類の病気があります。暴走した免疫細胞から発熱物質が出されて熱が出るわけです。

 しかし「悪性腫瘍」も「膠原病」も、感染症の治療薬の「抗生物質」や熱を下げ痛みを抑える「解熱鎮痛剤」だけでは治りません。悪性腫瘍なら手術や抗がん剤治療が必要ですし、膠原病ならステロイドや免疫抑制剤の治療が必要だからです。しかし解熱鎮痛剤やステロイドを使うと、一時的には悪性腫瘍や膠原病の熱が抑えられ一見病気が治ったかに思えます。さらに抗生物質を悪性腫瘍や膠原病に使っても効果はありません。
 
 正しい診断が行われないと発熱を繰り返し、あちこちの病院にかかったりするためにかえって本当の病気の診断が遅れてしまうことも多いのです。そのため熱が出た場合に安易に解熱鎮痛薬や抗生物質を使う「対症療法」を行うのではなく、まずどのような原因で熱が出ているのかを見極めて適切な治療をすることが重要なのです。


 (「くすぐる」診療所2015年6月号より改訂)

menu