062.小閑小話「体の部位と慣用句」~「目から鼻に抜ける」
体の部位に関することわざや慣用句は星の数ほどあります。例として日常的によく使われる頭や顔の部位に関する慣用句を挙げてみましょう。
「頭が固い」「頭が上がらない」「怒り心頭」「後ろ髪を引かれる」「間髪入れず」「面の皮が厚い」「赤面する」「目を付ける」「目頭が熱くなる」「目くそ鼻くそ」「耳が痛い」「右耳から左耳」「鼻が高い」「鼻息が荒い」「開いた口がふさがらない」「口がうまい」「舌が肥える」「歯に衣着せぬ」「喉から手が出る」等々やはりきりがありません。
日常的にはあまり使いませんが「目から鼻に抜ける」という言葉は「賢く、抜け目なく、敏捷(ビンショウ)である」という意味です。古典落語の「大仏餅」や「鹿政談」でよくマクラに使われる「大仏の目」という小噺(コバナシ)が由来でしょうか。
『ある時、奈良の大仏様の片目がはずれ、体内に落っこちた。これを直すことができず困っていたその時、親子連れの修理人が、「私達が直してみせます」と願い出た。既に何人もが挑戦して失敗していたが、断る必要も無いので請け負わせたところ、父親が大仏の目の穴に鉤縄を投げて引っかけた。子供がするするとその縄を登って行き、目の穴から体内に入って行った。しばらくすると大仏の目を持ち上げ元の目の穴に内側からはめ込んだ。しかしその子供が大仏の体内に閉じ込められてしまい皆が心配していたところ、その子供は大仏の鼻の穴を通ってシュ〜ッと出てきて、大仏の手のひらの上へポンッと飛び乗った。見て居た人々は喜んで、「あぁ〜良かった、あの子供が出てきた。ほんとに賢い子供ですなぁ〜。目から鼻に抜けよった!」』と言う小噺です。
ちなみに、実際の人では、目から鼻に鼻涙管(ビルイカン)という管があり涙が鼻に通り抜けています。奈良の大仏の鼻の穴はよく見ると1つの鼻の入り口の奥に小さな穴が3つ開いていますが子供でもとても通ることはできません。さらに大仏殿の北東、鬼門の方角の柱には邪気を逃すために柱に穴が開けられていますが、いつの頃からかこの穴が「大仏の鼻の穴と同じ大きさで、通り抜けると頭が良くなる。」と言われるようになり、柱の穴くぐりには行列ができるようになりました。おそらく「大仏の目」の話からこのような言い伝えが生まれたのでしょう。
しかしメタボの大人が無理をして通り抜けようとすると、はまり込んでお腹が抜けなくなってしまい大騒動になるため、無理な通り抜けはしないで下さいね!