お知らせ

076.「漢方の魅力」-その1-忘れられた日本古来の優れた医学

 今回は少し道草をしましょう。最近私は、西洋薬と漢方薬を組み合わせて治療することが多くなりました。漢方薬には西洋薬にはない独自の効力があり非常に魅力的だからです。

 西洋医学は「けが(外傷)」や「がん」の外科治療において非常に発展してきました。また内科的にはイギリスのジェンナーによるワクチンの発明、フレミングによる抗生物質の発見などに始まり感染症の治療が飛躍的に発展しました。その他にも遺伝子の解析やそれを治療に取り入れた多くの生命科学技術に支えられ、西洋医学はこれまで「死に行く病(やまい)」であった外傷やがん、重症感染症を克服して来たのです。


 それに対し江戸時代までの日本の医学は遠く飛鳥時代に遡(さかのぼ)り、遣唐使によって中国から伝わって来た医学を基(もと)として日本独自の「漢方医学」として発展してきました。ちなみに中国の医学のことを「中医学(ちゅういがく)」と言います。千年以上続き発達してきた日本の漢方医学ですが、江戸時代の末期頃より日本に西洋医学が輸入され、明治維新を境(さかい)に完全に西洋医学が漢方医学に取って変わりました。その後漢方医学は廃(すた)れてしまいほとんど忘れ去られた存在になってしまったのです。

 明治維新で西洋文化に取って変わられたのは何も医学だけではなく、美術、音楽、衣服、料理、建築、科学技術、政治経済に至るまで、あらゆる日本の文化が一気に西洋化しました。西洋化は良いこともあった反面、昔からの日本文化の素晴らしいものが数多く失われるという残念な側面もありました。

 医学の分野では、漢方医学はがんや外傷、重症感染症のような命に関わる重病に対してはほとんど無力であったかも知れませんが、日々の生活で人々がよく経験する多様な症状、疲れ、肩凝り、いらいら、食欲不振、冷えなど、これを西洋医学では「不定愁訴(ふていしゅうそ)」などと呼んであまり真剣に取り扱おうとしない風潮がありますが、漢方医学ではこのような命には関わらないけれど生活の質を低下させる様々な「不定愁訴」に対しては、実はかなり有効であることが多いのです。

 更に最近では、免疫力を高めたり、認知症やフレイル・サルコペニアという「老化現象」にも漢方薬が有効であったり、めまいや吐き気、腹痛や頭痛、便秘や咳などの様々な苦しい症状に対しても、使い方次第では西洋薬以上に漢方薬が有効な場合もあると再認識されてきています。問題は漢方薬の使い方の基本が「人に合わせて処方する」ことに真髄があるのに対して、「病気に合わせて処方する」西洋薬とは考え方が大きく異なっているために、西洋医学だけを学んでいる現在の日本の医者にとっては取っつきにくい医学になっているという点なのです。

menu