088.「看護師の心の深層」-感情労働と燃え尽き症候群-その2
看護師をはじめ対人的なサービスを行う職業では、自分の感情を抑えて相手に心地良い感情を与えること、つまり「患者様・お客様の満足度を高めること」が仕事上の大きな目的の一つです。このような仕事を「感情労働」と呼びます。看護師をはじめ、介護士、ソーシャルワーカー、カウンセラー、医師、保育士、教師など医療教育関係の仕事だけでなく、あらゆる分野の接客業、営業、苦情処理係りなど多くの「感情労働」と言える職種がありますが、看護師は医師と同様人の生死・生活に直接関わる仕事であるために究極の「感情労働」とも言えるでしょう。
看護学校では医学知識の勉強と同じくらい重要視されるのがこの患者さんを心身ともに癒す「感情労働」の分野であり、患者さんの気持ちをよく聞き=「傾聴」、受け入れ=「受容」、辛い気持ちを共有する=「共感」ということが徹底的に教育されます。
更に実際に看護師として働き出すと「患者さんに怒ったり泣いたり取り乱したり大笑いしてはいけない」「馴れ馴れしい態度をとってはいけない」「好印象の服装・髪型・立ち振る舞いをしなければいけない」などいろいろな場面で個人的な「感情」を押し殺して「良い看護師」であることが求められます。しかし感情労働を行う対人的職業に携わる人は自分の感情を押し殺す分だけ心理的なストレスを抱えやすく、ストレスが蓄積して行くと無気力な状態に陥りやすくなります。真面目で理想が高い人ほど懸命に患者さんに親身になるのですが、患者さんから感謝の言葉がなく苦しい訴えばかりをぶつけられると、「自分の看護が悪いのでは?」と落ち込んでしまい「辞めたい」という気持ちが持ち上がります。
この「燃え尽き症候群」を防ぐ方法はいくつか考えられますが、これまでは同僚や上司に相談したり、それぞれの趣味などでストレスを発散したり、いっそ休息や休暇を取るといった方法で対処されてきました。さらに最近では「アンガーマネジメント(=怒りの管理活用)」という心理的トレーニングの方法も有効と考えられるようになってきました。
「アンガーマネジメント」は元々犯罪者の矯正プログラムとして発展し、今では私たちの身の回りの多くのトラブル「パワーハラスメント=パワハラ」や今回の「感情労働に伴う燃え尽き症候群」への対処法として応用されて来ています。ここでは「怒り」を喜怒哀楽の一つとして「誰もが持っている普通の感情」としてまず認めます。そして「怒りの感情」を冷静に分析して対処し場合によっては逆に「パワー」に変えてしまいます。
このアンガーマネジメントの技術を実践することで徐々に心に余裕が出来るようになり、怒りをぶつけて来る人の心の奥底にある根本的な感情=第一次感情に気づき、怒りの奥にある本当のリクエスト=要求・要望が引き出せるようになるのです。怒っている人の隠れた感情や要求に理解を示す事で、怒っている人は「辛い気持ちを分かってもらえた」と感じて怒りが自然に治まり「ありがとう」の一言が引き出せるようになるのです。その一言で辛い「感情労働」に再び大きなやりがいや喜びが感じられるようになり、再び患者さんと苦楽を共に味わう「白衣の天使」に戻ることが出来るのです。