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093.「お酒」の話-その1

 もうすぐ年末です。この季節は忘年会に皆で集まりお酒を飲む習慣があるように、正月、節分、月見に花見、各種お祭り、祝賀会や結婚式、歓送迎会など、日本では事あるごとにお酒の席が設けられ、人々が交流を図る文化があります。

 世界でもメソポタミア(現在のイラクの一部)や中国では5千年以上前に既にビールやワイン、ハチミツ、果実や米のお酒が作られていたことがわかっています。おそらく古代ではお酒は宗教的儀式や薬としての役割も大きかったと考えられていて、今でも御神酒(おみき)としてその名残りが見られます。

 健康の上ではお酒はどのような立場なのでしょうか?「酒は百薬(ひゃくやく)の長(ちょう)」ということわざもあり、適量のお酒は健康にも良いと昔から言われてきましたが実際はどうなのでしょう?

 厚生労働省のe-ヘルスネットというホームページにも示されているように、WHO(世界保健機関)の評価では、飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸のがんおよび女性の乳がんの原因となるとされています。これまでの疫学的研究の結果からは、飲酒量と危険度の関係は、高血圧や脂質異常症、脳出血や乳がん、肝硬変などの疾患では飲酒量の増加につれてリスクが上昇する傾向があり、「酒は百薬の長」というのは言い過ぎのようです。

 しかし驚くことに、お酒を全く飲まない人よりも、少量飲酒者(1日平均23g=日本酒1合未満)の方が、総死亡数・虚血性心疾患・脳梗塞・2型糖尿病などのリスクはむしろ低くなることがわかっています。しかしそれ以上飲酒量が増えれば、リスクは高くなってゆくという「Jカーブ型」のグラフになるのです。お酒のリラックス効果、つまり血管を緩め、血流を良くし、体温を上げて、血圧を下げる、気分を良くしてその日のストレスを緩和するという効果が、総死亡数や虚血性心疾患・脳梗塞が少量の飲酒でリスクが下がる理由なのかも知れません。これで節度ある飲酒は今でも一定の社会的潤滑油の役割を持っていることにも納得ができそうです。

 逆に「たばこ」には害の方がはるかに多いという認識が強くなっているため規制が段々と厳しくなってきています。「お酒」の害としては、多量の飲酒による健康被害だけでなく、お酒による精神変容作用による暴力、虐待、事故、一気飲みによる急性アルコール中毒死、アルコール依存症に伴う離職や家庭崩壊などの深刻な社会問題を忘れてはいけません。酒やたばこの精神・神経の変容作用はいわゆる「麻薬」にも近い感覚や意識の急激な変化のため、この様なマイナス面があることも事実です。

 また日本人を含めて東アジアの人はお酒に弱いいわゆる下戸(げこ)の遺伝子を持つ人が多いことも事実で、少しのお酒でも血中にアルコールが分解されて出来たアセトアルデヒドという毒素がたまりやすい人が多いのです。この様な下戸の人たちは生まれつきお酒を飲んでも気持ちよく酔えない体質のため、無理強いをすることは出来ません。お酒の席=みんなが楽しめる席ということを忘れずに、少量・適量のお酒で健康にも留意してこの年末の忘年会シーズンを楽しく過ごして行きましょう。

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