101.「肩凝り(こり)」の話〜その2:「様々な手技療法の違いとは?」
現在のように、テレビやパソコン、スマートフォンの画面を凝視することが多くなると疲れ目や肩凝りになりがちです。かく言う私も肩凝りに悩む一人で、最近「整体」や「マッサージ」を利用することが多くなりました。
世の中には、似たようないわゆる「手技療法(手で行う療法)」を提供するサービスが何種類もあり、それぞれがどの様な内容なのか今ひとつよく解らないと思います。そのため今回代表的な手技療法についてまとめてみました。
国家資格となっている手技療法としては「按摩(あんま)」「マッサージ」「指圧」「柔道整復」「理学療法」の5種類があります。それ以外の「整体」「カイロプラクティック」「オステオパシー」「リフレクソロジー」などは現在の日本では手技療法の国家資格としては認められていません。
「按摩(あんま)」は、「按」=押さえる、「摩」=なでるという意味の2文字で呼ばれますが、実際は「押す、揉(も)む、さする、なでる、叩(たた)く」などの手技を用います。古代中国で発祥した療法で、奈良時代には日本に伝わっており、江戸時代に本格的に盛んになりました。現在中国では「推拿(すいな)」と呼ばれ100種類以上手技を用い非常に発達しています。
また日本では、鎌倉時代の「琵琶法師」を由来とする音楽を職業とする「当道座」という男性視覚障害者組合が存在していましたが、当道座は江戸幕府によって視覚障害者の保護政策として公認され、江戸時代には三味線や箏の演奏家、作曲家などとして活躍しました。箏の名曲「六段の調べ」の作曲家:江戸前期の八橋検校(やつはしけんぎょう)などが有名です。当道座は音楽業と共に、按摩・鍼灸(せんきゅう)(あんま・はり・きゅう:略して「あはき業」)も主要な職業とし、現在でもその伝統は守られています。
しかしこのあんまという言葉が視覚障害者に対する差別的な使われ方をすることもあったため広告や看板には「マッサージ」と表記する場合も多いと言われています。正確には「マッサージ:massage(マサージュ)」は元々フランス語で、ヨーロッパ発祥の手技療法を指す言葉です。按摩が中国医学の陰陽五行論を基として経絡・経穴(けいらく・けいけつ)の理論に従って衣服の上から、体の中心部から末梢側に向かって揉むのに対して、ヨーロッパ発祥のマッサージはリンパや静脈循環の改善を目的として、直接皮膚を触り、末梢側から心臓に向かって求心的に揉むことが特徴で、アロマオイルなどを塗りながら揉むことも多く、アロママッサージ、オイルトリートメント、リンパドレナージュと言ったセラピー(療法)はこのヨーロッパ由来のマッサージを基としていると考えられます。
またインド伝統医学の「アーユルヴェーダ」でも似た様なオイルを用いた全身のマッサージ療法があり、インド医学とヨーロッパ医学(ユナニ医学=ギリシャ・アラビア医学)は古くからお互いに影響し合っていたと考えられます。次回も今回に続き、アメリカ発祥の手技療法や整体、指圧などについてお話しします。
「くすぐる診療所」 (2020/7/20) No.101. 2020年8月号掲載