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104.「ストレス」の話:その2-日本人は「セロトニン」脳内濃度が低い?

 「ストレス」がかかると体はストレスに対して様々な反応をおこします。副腎皮質の「コルチゾール」や副腎髄質の「アドレナリン」「ノルアドレナリン」などのホルモンの分泌が増えて体はストレスに立ち向かいます。また精神面では慢性的なストレスは脳内の神経伝達物質「セロトニン」を減らします。

 「セロトニン」は別名「幸せホルモン」とも呼ばれますが、脳内ではホルモンではなく「神経伝達物質」として働きます。他の神経伝達物質「ドーパミン(快感・喜び)」や「ノルアドレナリン(意欲・集中力)」の働きを調整し、精神の安定を保ち「落ち着き」をもたらし、心と体のバランス、睡眠と覚醒のバランスなどを調整する大事な役割を担っています。

 ストレスによりこの「セロトニン」の働きが低下すると不安症や抑うつ症に陥るために、脳内のセロトニン濃度を高めるためのお薬SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が世界中でうつ病の薬として多用されています。またこのセロトニン再取り込みを行うトランスポーター(輸送体)の遺伝子には輸送能力の高いL型と、能力の低いS型があり、この遺伝子が組み合わされて「LL型」「LS型」「SS型」の3つのタイプに分けられます。そして実際に持っている輸送体のタイプがL型の人はセロトニン脳内濃度が高く、S型の人はセロトニン脳内濃度が低いのです。

 このセロトニン輸送体の型は人種によって大きく異なり、タチアナ・ノスコヴァらによるとコケージャン(ヨーロッパの人)にはL型の比率が高く、アジア人にはS型の比率が高いことが示されています。なかでも日本人はセロトニン濃度の高いL型が19%と世界で最も少なく、セロトニン濃度の低いS型が81%と世界で最も多いのです。

 ちなみにコケージャンのクロアチア人はL型62%、S型38%です。日本人の8割を占めるS型の人は悲観的なのでしょうか?確かにS型の人は抑うつ状態になりやすい弱さを持ってはいますが、同時にS型の人は物事に敏感な人であり、先々のことまで気が配れる人でもあります。そのためS型の人は知能が高く、目先の利益よりも将来の利益のためにがんばる意思力が強い人なのです。

 敏感なS型の日本人は「ひ弱な蘭(らん)」の花に例えられます。蘭はストレスを加えられるとすぐに枯れてしまいますが、最適な環境では大輪の花を咲かせます。同様にS型の日本人は敏感なために変化を嫌いますが、もし今の環境でしおれているようならば、自分が「ひ弱だ」と嘆く前に思い切って環境を変えてみて、ストレスの少ない環境に変われば鈍感なL型(=ストレス下でもたくましく育つ「たんぽぽ」に例えられます)よりもはるかに大きな成功と喜びを手にすることができるでしょう。次回は具体的にセロトニンを増やす方法を考えてみましょう。


「くすぐる診療所」 (2020/10/20) No.104. 2020年11月号掲載

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