106.「2021年に想いを馳せて」
私が「くすぐる診療所」を執筆するようになってから今回で9回目の新年号となります。
1年前にも前年2019年を振り返り「出来事の多い慌しい年」と書きましたが、それは平成から令和へと年号が変わり、消費増税や度重なる豪雨災害、幾つもの殺傷事件や香港の民主化デモなどが続いたからでした。
しかし昨年2020年は皆様もご承知の通り「コロナウイルス」一色の年でした。東京オリンピック2020が延期となり、アメリカの大統領選挙では共和党トランプ政権から民主党バイデン政権へと移行し、日本では安倍政権から管政権への移行が行われましたが、この原稿を書いている最中(さなか)に発表された2020年「今年の漢字」の1位は「密」でした。
「ユーキャン新語・流行語」年間大賞も「3密」で、コロナウイルス感染症関連の言葉が2020年のトップを飾りました。またノミネートされた他の言葉を見ても、コロナ禍の「ステイホーム/おうち時間(SNS流行語大賞1位)」の影響が大きく、ゲーム「あつまれ動物の森」(ニンテンドー)やアニメ「鬼滅の刃」(吾峠呼世晴:ごとうげ こよはる作)、ドラマ「愛の不時着」(韓国ドラマ)や「ソロ(一人)キャンプ」などの言葉が選ばれました。
1年の後半はGoToトラベル・イートキャンペーンで、これまで我慢して来た旅行や飲食が一気に解禁されたかの様な人出となり、12月にはこれまでにない勢いでコロナ感染者が増加してしまいました。そのためにようやく軌道に乗り始めた経済対策も「年末年始のGoToトラベルキャンペーン全国一斉停止」で先行きが怪しくなってしまいました。
医療の世界では近年「感染症」よりも、「癌」や「生活習慣病」に関心が集中していましたが、それもこの1年で状況が急変しました。これまで需要の少なかった「感染症専門医」がにわかに注目を集めるようになり、ワクチンや抗ウイルス薬の開発がかつてないほど急ピッチで進められています。人と人とが顔を合わせる会議や学会などがモニター画面上で「オンライン会議・学会」に取って変わり、電話やネットを活用した「オンライン診療」が導入されるなど、インターネットの普及で将来はこうなると予想されていたことが一挙に現実となりました。「将来を予想し、変化に迅速かつ柔軟に対応する」能力が必要な時代になったと痛感します。
しかし「密を避けよう」と叫ばれる中で逆説的に見えて来たのは「人と人とは密接な交流・コミュニケーションなしでは社会生活が営めない。」という事実です。一時的に密を避けることができても永続的に密を避けることはできません。少なくとも家族や仕事仲間、学校のクラスメイト、親しい友人などと一生関わらずに一人で生きてゆくことは不可能です。そんな生きる上で最も根源的で大切なことを再認識させられた1年でもありました。
「くすぐる診療所」 (2020/12/15) No.106. 2021年01月号掲載