お知らせ

116.「栄養のお話し」〜その4「食塩と血圧との関係とは?」

 食塩(ナトリウム)の摂り過ぎが高血圧の原因となり、高血圧は脳卒中や心筋梗塞の原因になることは今ではよく知られています。2011年に国際連合から生活習慣病予防のための5つの行動指針が発表されましたが、1つ目はタバコの規制で、2つ目が減塩のためのキャンペーン、3つ目が肥満・不健康な食事・運動不足の改善、4つ目酒を飲み過ぎない、5つ目が心血管系疾患を減らすための薬物治療(降圧薬など)で、減塩は降圧薬の内服治療よりも上位に位置づけられています。

 実際にヒトに必要な1日の食塩はたった1.5gなのに、日本人成人の食塩摂取量は1日平均10g以上も摂っています。食塩は昔から食物を腐敗から守るための保存料として重宝されて来たため、日本でも魚の塩漬けや、野菜の漬物、味噌や醤油などの調味料など様々な所で食塩が使われてきました。

 イタリア、スペイン、ポルトガルなどの南ヨーロッパや、その植民地となっていた中南米・ブラジルなどでも、タラの塩漬けはカトリックの宗教的な決まりで肉を食べてはいけない期間中にでも食べても良い貴重な食料源としてたいせつな食材で、これらの国も日本ほどでは無いのですが塩分摂取量が多い国々です。

 数多くある塩分摂取量と年齢・血圧との関係を調べた調査によると、塩分摂取量に比例して30歳以降は年齢と共に直線状に血圧が上昇して行くことがわかってきました。例えば、35歳で収縮期血圧(上の血圧)が126mmHgの人が1日当たり14gの塩分摂取を続けると30年後の65歳の時には150mmHgまで上昇し立派な高血圧症となります。では同じ人が1日7gの塩分摂取を続けると、30年後の65歳では138mmHgとまだ正常範囲の血圧になることがわかっています。

 そして大事なことは、1日の塩分摂取量とは言っていますが、実際に血圧と関係するのは30年間の合計した塩分量、1日14gの人なら153kg、1日7gの人なら半分の77kg摂取することがそれぞれ+24mmHgと+12mmHgの血圧上昇につながるという点で、1日だけ多めに塩分をとっても他の日で控えていて積み重ねが少ないほど血圧の上昇も少なくなることがわかっています。

 アマゾン川の上流域に住む人々は調味料に塩ではなく灰(カリウムを含む)を使い、1日3g以下の食塩しか摂取しない食生活(ノーソルト・カルチャー)をしています。彼らの血圧は一生涯を通じてほとんど上昇せず、高血圧の人もほとんどいません。

 日本人に推奨されている食塩の1日目標上限量は男性7.5gで女性6.5gです。WHO世界保健機関が定めている上限はたった5gで、現在の日本人の平均摂取量の半分以下です。この事実を参考にしながら日々の減塩に努め、「塩分はこれまでの半分を」心がけて行きましょう。


「くすぐる診療所」 (2021/10/20) No.116. 2021年11月号掲載

menu