117.「栄養のお話し」〜その5「そんなに食べていないのになぜ太る?早食い、ソフトドリンク、朝食抜きと肥満の関係。」
アメリカで肥満が増加し出したのは1960年代以降でしたが、同じ時期に心筋梗塞の原因となる「飽和脂肪酸」を減らす「低脂肪」の食品対策を進めたおかげで確かに心筋梗塞は減って行きました。代わりに「コーンシロップ」のような甘味料、「ソフトドリンク」の多量摂取、高度に精製された穀物製品などいわゆる「糖質」の過剰摂取が重なり「肥満」と「糖尿病」が増えてしまったのです。
フィンランドで「昨日何をどのくらい食べましたか?」と質問する研究が行われましたが、人は食事として食べた肉や芋などの事はよく覚えているのですが、間食に食べたケーキやビスケット、果物などの量はあまり覚えておらず、特に太っている人ほど自分が食べた量を少なく考えている事が明らかにされました。つまり太っている人はその原因として「そんなに食べていない」と実際に食べた量より少なく見積もっている可能性が高いのです。
また別の日本の研究では、ゆっくり食べる人よりも「早食い」の人の方が、脳が「満腹感」を感じるまでにすでにたくさん食べ過ぎたり、食物繊維の少ない柔らかいものを食べる傾向があるため、太りやすい事が明らかにされています。
また学校給食の時間も15分から20分以内と短く、「早く食べる事が良い事」と教育されているために、給食時間を過ぎてまでゆっくりと食べていると罰が与えられます。私も皆が掃除をしている中で残りの給食を食べさせられた記憶がありますが、健康の側面から考えると「早食い」はあまり良い事ではないのです。
次にオランダの子供達の研究では、毎日1缶250mlで104キロカロリーの「ソフトドリンク」を1年半飲むと、飲まない子供より平均体重が1kg重くなり、またソフトドリンクと共にハンバーガーやフライドポテト、ドーナツなど脂質やカロリーの高い副食を好んで食べ、タンパク質やカリウム、カルシウム、食物繊維の摂取が少なくなることがわかりました。
東京の「御茶ノ水駅」ではダジャレのように「お茶」と「水」だけの自動販売機を設置して話題になったこともありましたが、今では健康意識の高い学校や病院では水とお茶だけの自動販売機を設置するようになり、健康上では砂糖を多く含むソフトドリンクを減らすことはむしろ良いことなのです。
最後に朝食を抜いて1日の摂取カロリーを少なくすれば痩せるのでは?という研究もありますが、実際に朝食を抜いた方が1日の摂取カロリーが減るのですが、逆に体重が増える結果が出てしまいました。この理由は今も謎ですが、1つの仮説としては朝食を摂らない人は1日を始めるスイッチが入らず運動不足になりやすく、野菜や果物の摂取が少ない傾向になるため肥満になりやすいのではないかと考えられています。
確かに寝坊やダイエットの為に朝食を抜くと、午前中あまり元気に仕事ができない気がしますので、この説はまんざら嘘でもなさそうです。
「くすぐる診療所」 (2021/11/20) No.117. 2021年12月号掲載