120.「栄養のお話し」〜その7「日本人の遺伝子はお酒に弱い。お酒の量と病気の関係」
「お酒」は「エタノール」というアルコールの一種の事でしたが、飲んだお酒は胃や小腸で吸収されて肝臓に運ばれ、肝臓で酵素の働きによってエタノール→アセトアルデヒド→酢酸→水と二酸化炭素へと変換されて無毒化されます。このうちアセトアルデヒド→酢酸へと変換する「アルデヒド脱水素酵素」の働きを決める遺伝子は日本人をはじめアジア人では弱く、「お酒をあまり飲めない遺伝子を持つ人」が多いことがわかっています。
ヨーロッパやアフリカの人ではこの「飲めない遺伝子を持つ人」がいないこともわかっています。この「飲めない遺伝子」をもつ人は、お酒を飲むと顔が赤くなる、または過去に顔が赤くなっていたが飲み続けているうちにお酒に強くなって赤くなりにくくなった人ですが、遺伝子が変わったり強くなることは一生なくて、他の方法でアルデヒドを分解する働きが少し強くなっただけなのです。
また、お酒と病気との関係では、お酒はタバコ同様に飲めば飲むほど、特に食道癌・大腸癌・女性の乳がんになりやすくなることがわかっています。逆に少量のお酒は血流を良くするために、脳卒中や心筋梗塞になりにくくなることもわかっていますが、最も脳卒中や心筋梗塞になりにくいお酒の量はたった1日7g、日本酒で0.3合でしかありません。そして、このお酒を飲むと赤くなる・過去に赤くなった人が食道癌になる危険度は、赤くならない人の約5倍で、1日1.3合未満の軽度飲む人でも、飲まない人と比べると食道癌になる危険度は6.7倍、1日2.6合未満の中等度飲む人で42.7倍、そして1日2.6合以上飲む人では何と72.9倍も食道癌の危険度が高くなるのです。
食道癌は数ヶ月単位で急速に大きくなり、転移しやすく、治りにくい癌です。唯一胃カメラ検査でのみ早期に発見することができ、早期のうちならば胃カメラによるESDという粘膜を剥ぎ取る治療で完治させることが可能ですが、粘膜下層と言って表面の粘膜層から少しでも深くにがん細胞がもぐり込むと簡単にリンパ節に転移してしまい、胃カメラの治療では治せなくなってしまいます。
そういう訳で、普通は胃癌を見つける目的だけなら1-2年に1回程度胃カメラをすれば十分だと考えられますが、顔が赤くなりやすいのにたくさんお酒を飲む人は半年に1回の胃カメラ検査が必要だと考えられます。
私の患者さんにはその様に説明して、危険度の高い人には半年ごとに胃カメラ検査を行っています。自分のお酒の強さを考えた上で適切な量を飲む様にして、適切な間隔で胃カメラ検査を受ける様に、いつも私が言っているように「自分で自分の健康を守る」ことを是非心がけてください。
「くすぐる診療所」 (2022/02/20) No.120. 2022年3月号掲載