123.「菜の花は何の花?」食と健康の話〜その2
「菜の花」は「油菜アブラナ」だけに咲く花ではありません。実は「アブラナ科」に属する植物は私達の周りに数多くあり、その「葉」を食用とする「漬け菜」類としては「水菜;京菜・壬生菜みぶな・野沢菜・小松菜・青梗菜チンゲンサイ・高菜・ケール;ハキャベツ(青汁の原料)」などだけでなく、形が全く異なる「白菜ハクサイ」「キャベツ;甘藍かんらん」「ブロッコリー」「カリフラワー」も全て同じ「アブラナ科アブラナ属」の植物です。
さらに根っこを食べる「蕪カブ=スズナ:聖護院カブ・金町小カブ・天王寺カブなど」も、種を香辛料として使う「芥子菜カラシナ」も、中国四川省特産のカラシナ「ザーサイ」も、観賞用の「ハボタン」も、全てが同じ「アブラナ科アブラナ属」の植物で同じ黄色い十字型の4枚の花弁の「菜の花」を咲かせます。
さらにアブラナ科の他の属の植物まで紹介すると、「カブ」に似た国民的野菜「大根ダイコン=スズシロ:宮重大根・三浦大根・聖護院大根・桜島大根・守口大根・二十日大根・貝割れ大根(四十日大根)など」を始め、「クレソン;オランダガラシ」「ワサビ本山葵」「ホースラディッシュ;西洋山葵セイヨウワサビ」「ルッコラ」「ナズナ;ぺんぺん草;三味線草」など、菜の花とは色違いで形状がそっくりの白〜薄紫色の十字型の花を咲かせます。
このうちナズナ・スズナ・スズシロは「春の七草」でも有名ですね。「カブ」の葉っぱが小松菜や青梗菜に似ているのはわかりますが、水菜や壬生菜はあまり似ていませんね。むしろ法蓮草ホウレンソウや春菊シュンギクの方が似ている様に思えますが、法蓮草はユリ科で春菊はキク科と種類が違います。また白菜やキャベツは葉っぱが内側に幾重いくえにも重なり合い「結球けっきゅう」することで独特のあのボール形になっているのですが、同じ結球する野菜の「レタス;萵苣チシャ」はキク科の植物です。
また砂糖大根;甜菜テンサイはヒユ科アカザ亜科フダンソウ属「ビート」の仲間で「ダイコン」とは縁の遠い植物です。
この様に見た目だけでは種類の異同は分かりにくいのですが、「花」と「種」を見ると実は同じ種類の植物は類似しています。奈良時代の日本最古の書物と言われている「古事記こじき」や「日本書紀にほんしょき」「万葉集まんようしゅう」「正倉院しょうそういん文書」には「カブ」や「ダイコン」がすでに記載されています。
カブやダイコンは米・豆・あわ・きびなど五穀の裏作として秋から冬にかけて作られ、干して漬物として保存することで、五穀が十分取れず飢饉になったときの食糧源として重宝され、推古朝の昔から何度も御触れが出され栽培が推奨されたそうです。このように「菜の花;アブラナ科」の植物は古くから日本に渡来してその土地に合った形に品種改良されて多種多様になって行ったのです。
最近ではアブラナ科植物に含まれる「グルコシノレート」が変化して「スルフォラファン」になりがん予防作用があることがわかっています。このように日本中ですっかりポピュラーなアブラナ科野菜ですが「白菜ハクサイ」だけは長い間栽培が困難でした。明治時代に中国の白菜を日本でも試験栽培しましたが、「結球」せずにすぐに普通の漬け菜のように葉が開いてしまい白菜になりません。明治から大正にかけて40年以上の歳月をかけて、愛知県の野崎徳四郎さんや、宮城県の沼倉吉兵衛さん・菅野鉱次郎さん等の非常な努力でついに、現在では国民的野菜の1つ「白菜」の栽培に成功したのです。仙台の春の名物詩「仙台アブラナ」というのは実は松島の浦戸諸島に咲き誇るハクサイの花なのです。
「くすぐる診療所」 (2022/05/20) No.123. 2022年6月号掲載