125.「栄養のお話」〜その8「ビールとプリン体と尿酸(にょうさん)と痛風(つうふう)」
最近、アルコール飲料売り場では、「プリン体off(オフ)やプリン体free(フリー)」をうたい文句にしたビールや発泡酒、酎ハイが体に良いからと、店頭にズラリと並んでいます。また健康診断を受けた時に、アルコールを良く飲む人は、「γ(ガンマ)GTP」や「尿酸」の値(あたい)が高くて「要精査(ようせいさ)・アルコールを控えバランスの良い食事をしましょう!」と判定を受け注意をうながされる事が多いかも知れません。今回はこのうち「尿酸」についてのお話です。
尿酸は肝臓(かんぞう)の中で数種類の「プリン体」から作られます。その尿酸が血液の中を巡(めぐ)って腎臓(じんぞう)から尿中に排泄されます。尿酸は血液の中で高濃度になってくると、具体的には9.0mg/dl以上に高くなると、「痛風」と言って多くは足の親指の関節炎を起こし、親指が赤く腫れ上がり激痛で歩くことも眠ることもままならないという病気にかかってしまうのです。
また尿酸はじわじわと腎臓に沈着して目詰まりを起こし「腎不全じんふぜん」という腎臓の働きを悪化させる病気を引き起こします。更に尿酸は「尿管結石(にょうかんけっせき)」と言って、尿が腎臓から出て膀胱(ぼうこう)に溜まるまでの管(くだ)の中に尿酸が結晶化した石(結石けっせき)が出来て尿管に詰まってしまい、急に激しいお腹や背中痛みとそれに伴う吐き気が数分おきに襲ってくるという、非常につらい病気にもなる可能性もあります。(尿が酸性では尿酸結石が、アルカリ性ではシュウ酸カルシウム結石やリン酸カルシウム結石が出来やすくなります。)
また最近では、尿酸値が高い人は、食べ過ぎやアルコールの飲み過ぎで「肥満(ひまん)」の人が多く、肥満の人は、糖尿病・脂質異常症(高LDLコレステロールいわゆる悪玉コレステロール血症や高中性脂肪(TG)血症)・脂肪肝などを合併している事が多いのです。この様な病気と「高尿酸血症」は最終的に全身の「動脈硬化」を引き起こし、「高血圧症(家庭血圧の正常値は115/75mmHg以下、Ⅰ度高血圧とは家庭血圧で135/85mmHg以上、その間は正常高値血圧と言います。)」から「脳卒中(脳梗塞および脳出血)」や「狭心症や心筋梗塞」といった脳や心臓の血管が詰まる病気、そして先にも書いた「腎不全」など、「血管を悪くして各臓器を悪化させ、最終的には死に至る重い病気」になることが明らかにされています。
さて、この「痛風」「尿管結石」「高血圧症」「脳卒中」「狭心症・心筋梗塞」「腎不全」を引き起こす「尿酸」の元となるのが「プリン体」と呼ばれる複数の物質で、あらゆる生物の細胞の核の中の遺伝情報として存在するDNA(ディー・エヌ・エー)やRNA(アール・エヌ・エー)の材料「核酸」のうち、アデニン(A)とグアニン(G)がプリン体の一種です。その他にもカフェイン(コーヒーや麦茶以外の「茶葉」から作られる「各種お茶」や、ココア、コーラに含まれる。覚醒・興奮・解熱鎮痛・強心・利尿作用あり。)や、テオフィリン(カカオや茶葉の成分であり、強力な気管支拡張作用がある。過量になると痙攣の副作用がある。)といったものもプリン体の一種です。そのため、生きた細胞の中で分裂を盛んに行っている部位には多くのプリン体が含まれています。
プリン体と言うと一般的には「ビール」を一番に挙げやすいのですが、実はビールよりも「肉類や魚介類」、「野菜や果物、穀物」に含まれるプリン体の方が、同じ分量では多いのです。逆にプリン体を含まない食品としては、細胞分裂を行っていない無精卵の「鶏卵」、細胞(生物)ではない「牛乳」、そしてアルコール自体も生物ではありませんので、アルコールを蒸発させて作る蒸留酒(=スピリッツ:焼酎・ウイスキーなど)にはプリン体は含まれません。そのため、ビールだけでなく、ビールと一緒に食べる、イギリスのフィッシュ&チップスや、ドイツのソーセージなどは尿酸が高くなる元です。
それとは別に、アルコールには肝臓でのプリン体から尿酸を作る働きを強め、尿から尿酸を排泄する働きを弱める作用があるため、やはりアルコールの飲み過ぎは肉や魚介類の食べ過ぎに加え更に「尿酸値」を高くしてしまいます。そして最後に「肥満」自体、尿酸が尿から排泄する働きを弱めます。以上の様に、尿酸値を高値のまま放置して置くと、取り返しのつかない病気になるために、その原因となる「アルコールの飲み過ぎ」「魚介類や野菜・果物・穀物類でも食べ過ぎ」「肥満」を改める生活に切り替える必要があるのです。
「くすぐる診療所」 (2022/08/20) No.125. 2022年9月号掲載