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126.『動的平衡(どうてきへいこう)』-「私たちの体の分子は常に入れ替わっている。」

 流行の新しい言葉は、時代が進むと同時にどんどんと作られて行きますが、最近では「○活」という言葉が30種類ほどもあるそうです。初めに言われ出したのは「就職活動(しゅうしょくかつどう)」を略した「就活(しゅうかつ)」という言葉でしたが、その後結婚相手を見つけるための活動「婚活(こんかつ)」、人生の最後に向けて、残された家族などに迷惑をかけない様に事前に準備する仕舞い支度を「終活(しゅうかつ)」、「朝活」(=出勤や通学前にランニングやスポーツをしたりカフェなどで本格的な朝ごはんを仲間などと食べたりして朝から精力的に活動すること)や、「妊活」(=晩婚化が進み高齢出産が増えたこともあり、より妊娠しやすくするための知識をつけたり、より妊娠しやすい状態を作ること)など多くの新語が生まれています。

 その中で、「腸内環境」を正常にして、お通じを快適にしたり、美容やダイエット、健康増進を図ることを「腸活(ちょうかつ)」や「菌活(きんかつ)」と言うそうです。私たちは毎日食事をして、お通じを出すことを何気なくしていますが、よく考えてみると、私たちの体は全て、私たちが食べたものから作られています。

 2022年の7月号「食と健康のリテラシーとは?」食と健康の話〜その3、でもご紹介したように、フランスの美食家サヴァランは「あなたが普段食べているものであなたがどんな人であるか当てて見せよう。」と言いましたし、 ドイツの哲学者フォイエルバッハは「人間とはその人が食べたものである。」と述べています。

 もっと昔の漢方医学では「薬食同源(やくしょくどうげん)」という言葉があり、食事療法は薬物療法と同等かそれ以上と見なされていました。また、最近では福岡伸一先生が『動的平衡(どうてきへいこう)』という言葉で見事に表現されていますが、私たちの体の大部分は「アミノ酸」がつながり合った「タンパク質」でできています。

 私たちは口から食べたタンパク質をまず一旦腸の中で分解してアミノ酸として細かくし、血液の中に吸収して、体の中で再度、人間なら人間の遺伝子のDNAの配列に従ってまた「人間のタンパク質」に作り変えます。人間のタンパク質を作るアミノ酸はたった20種類しかありませんが、自然界には約500種類ものアミノ酸が発見されています。

 しかし20種類のアミノ酸を数十個組み合わせると、何と約10万種類もの「タンパク質」を作ることができ、これらのタンパク質が体の至る所を構成しています。体の中の一つの細胞であっても、常にタンパク質を作りながら(合成)、捨てている(分解)ということを繰り返していて、そうすることで初めて元の形を保つことができているのです。このタンパク質の「合成」と「分解」を止めることは『死』を意味するのです。

 これを福岡博士は『動的平衡』という言葉や『変わらないために変わり続ける』という言葉で言い表しています。鴨長明の「方丈記」の冒頭「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。」も深い所では同じことを言っているのでしょう。

 「ヒアルロン酸」や「コンドロイチン」と言った「宣伝文句」の医薬品を摂取しても、それがそのまま関節やお肌に行くことはありません。関節やお肌を作っている「ヒアルロン酸」も「コンドロイチン」も一旦腸の中で消化吸収されて分解され、他のものと混ざり合って20種類のアミノ酸の一部となり血液の中を循環して、再び糖質などと組み合わされて作り直されているのです。

 しかし、最近の研究では更に腸の知られざる新たな側面が解明されて来ました。それは、「腸と脳が違いに通信し合っている」=「腸脳相関」という新しい考え方(概念がいねん)です。そして、そこには100兆個と言われる「腸内細菌」の働きがあってこそ初めて生きて行くことが可能となる、太古の昔から動物と細菌の共生生活の驚くべき世界が見えてきたのです。次回はその「腸内細菌」と「腸脳相関」のお話をしたいと思います。


「くすぐる診療所」 (2022/11/20) No.126. 2022年12月号掲載

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