130.「皮膚のお話」その1“にきび”は皮膚科などの病院で根気よく治療を続けましょう!
つい先ごろまで暑い日が続いていたかと思えば、もう早くも小雪(しょうせつ)の候:朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)季節となりました。私は子供の頃に“霜焼しもやけ”がひどくて冬場にピアノを弾く前には、お湯をためた桶(おけ)に両手をしばらくつけて、手を十分に温めないと指が思ったように早く動かせないために苦労をした記憶があります。
霜焼けの事を医学的な言葉では“凍瘡とうそう”と言います。子供の頃に多い皮膚の病気として「アトピー性皮膚炎」や「にきび(医学用語では尋常性痤瘡じんじょうせいざそう)」が有名です。今回は“にきび“についてお話します。
皮膚科学会から尋常性痤瘡:にきびのガイドライン2023年版が発表されています。以前の日本では、にきびの治療法と言えば”にきび菌(アクネ菌;痤瘡桿菌ざそうかんきん)”に対して抗菌薬の塗り薬(外用薬がいようやく) や飲み薬(内服薬ないふくやく)を使う治療しか無い状況でしたが、2008年に初めてのにきびのガイドラインが発表されて、同じ年に抗炎症と角化正常化作用のある”アダパレン(ディフェリン)”というビタミンAの仲間(レチノイド)の塗り薬が日本で導入され、さらにその後強い酸化作用でにきび菌に殺菌的に作用し、しかも耐性菌を作らない”過酸化ベンゾイル(ベピオ)“の塗り薬が使えるようになりました。それらを合わせた合剤の塗り薬(エピデュオ)、抗菌薬と過酸化ベンゾイルの合剤の塗り薬(デュアック)などが保険で使える薬として認められ、日本でのにきび治療が大きく進歩しました。
にきびは”青春のシンボル“などと言われることもありますが皮膚の慢性炎症性疾患でれっきとした病気です。思春期ごろから皮膚の油:皮脂(ひし)の分泌(ぶんぴつ)が増えることと、毛が生えている穴:毛包(もうほう)の出口の角化亢進(かくかこうしん)で出口がふさがれ”白ニキビ“と言われる面皰(めんぽう:コメド)という状態で始まります。
その後さらに皮脂がたまると出口が押し広げられて毛穴が開き汚れで黒くなる”黒ニキビ”の状態になります。さらにそこに炎症細胞の白血球(はっけっきゅう)が集まってくると“赤ニキビ”と言って“炎症えんしょう”つまり赤く腫(は)れあがって痛みと熱を持つ状態に悪化し、さらに皮膚に普段から生息している“にきび菌”や“黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)”などが増殖(ぞうしょく)してくると“膿うみ”がたまって“黄ニキビ”という段階に至ります。
最後に毛穴が破壊されてしまって中で出血することで“紫ニキビ” にまで至る場合もあります。またそこまで悪化してしまうと、にきびが治った後にも“瘢痕はんこん”と言って凹(へこ)んだり、盛り上がったり、凸凹(でこぼこ)となってその後ずっと残ってしまいます。これによって悩みを抱える若い人も多いため、現在にきびは跡が残らないうちに早く治して、またそのきれいな肌の状態をずっと続けるように“維持療法いじりょうほう”を続けることが大切だとされています。
自分でにきびを潰(つぶ)したりステロイド剤を使うことは逆ににきびを悪化させる可能性がありますし、抗菌薬は使い続けるとそのうちに“耐性菌たいせいきん”が出現してきて、菌に効かなくなってしまうため、抗菌薬で維持療法はできません。新たに使えるようになったアダパレンや過酸化ベンゾイルを適切に使うことで多くの場合にきびのできにくい、きれいな肌をキープ:維持することが可能です。
また保険外治療ですが“ピーリング”と言って皮膚の表面の角化細胞層をいったん酸性薬剤で剥がしてしまい、新しい角化細胞層に生まれ変わらせることで、きれいな肌に作り替える治療法や一部の漢方薬などもガイドラインで選択肢の1つとして推奨されています。このように日本のにきび治療もここ15年ほどでかなり進歩していて、早期治療と維持療法を続けることで“ニキビ跡”が一生残ることが防げるようになってきています。なので、にきびは自分でつぶしたり放置せずに、皮膚科などの“病院”に行ってきちんとした治療を続けることが最も大切です。
「くすぐる診療所」 (2023/11/20) No.130. 2023年12月号掲載