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025.「胃ろう」の話-その2

 前回号では、近年日本では「胃ろう」がどんどん作られて、胃ろうで生きておられる寝たきりの高齢者が増えてきましたが、最近になって反省すべき点も取り沙汰されるようになったとご説明しました。

 胃ろうというのは、脳梗塞や心筋梗塞、認知症の末期などで寝たきりとなり、飲み込む力がなくなって自分で食事が摂れなくなった患者さんに行う栄養摂取のための方法の一つです。胃ろうの他にも、手などから入れる末梢静脈点滴(最も普通の点滴)、首などから入れる中心静脈点滴、埋め込み式のCVポートと言われる中心静脈点滴、主に末期の患者さまに行う皮下に少量の糖液などのみを入れる皮下点滴、更に鼻から胃にチューブを入れる経鼻経管栄養法など、さまざまな栄養の方法がありますが、この中でも長期的にみると最も管理がしやすく、栄養状態の改善に効果的な方法として胃ろうが最も普及してきました。

 しかし、作った後の管理はし易いのですが、実際胃ろうを作る手術には結構高い割合で合併症が起こることも事実です。具体的に胃ろうを作る方法は至って簡単で、麻酔をかけて口から胃カメラを入れ、お腹の皮膚を小さく切開して、胃カメラで胃の中から見ながら直接胃に針を刺して、その穴を直径8mm径に押し広げて胃ろうのチューブを入れます。しかし8mmは実際に見てみるとかなりの太さで、鉛筆の太さが7.2mmですから鉛筆よりも太い直径の穴をお腹に開けることになり、意識がしっかりある人は数日の間相当痛がられます。
 また腹壁を刺す時に、近くにある大腸や肝臓を貫いたり、腹壁や胃壁の血管を傷つけて大出血したり、作った後にも胃潰瘍になったり、誤嚥性肺炎になったり(最も多い合併症です)、およそ半年ごとの交換の際に誤って腹腔内に入ってしまい腹膜炎になったりと、他の内視鏡を使って行う治療に比べても非常に合併症が多いのが事実です。その理由はひとえに胃ろうを作る患者さんはほとんどが、寝たきりで体力や抵抗力の非常に低いご老人だからです。
 
 しかし、2週間ほどを乗り越えるとその後の管理は家でご高齢の家族が世話できるほど簡単なものになります。長い方ですとその後5年間以上も胃ろうからの栄養で寝たきりのまま生きておられる患者さんもあります。その間に介護するご家族も高齢になったり病気になったりしていわゆる「老老介護」になることもしばしばです。面倒が見切れなくなると施設や病院にあずけっぱなしということもよくあります。

 胃ろうをすべきか、すべきでないかはそれぞれの患者さんの病気の状態や生き方・人生観によりますが、まずは正確な情報を知った上で危険性と予後(その先どのようになるのか?)を良く考えて行うべきでしょう。


(「くすぐる診療所」2014年4月号より改訂)

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