お知らせ

042.救急編~「蜂アナフィラキシーショック」

 夏の救急外来には「蜂刺され」の患者さんが増えてきます。

 刺された痛みや局所の腫れ、軽い蕁麻疹(じんましん)ならば、ステロイド剤や抗アレルギー剤、鎮痛薬などの治療で済むのですが、蜂に刺された数分後に全身に蕁麻疹が出現して、のどの腫れを引き起こし呼吸困難や血圧低下に至る「アナフィラキシーショック」の状態になると命に関わる一大事です。

 これは即時型アレルギー反応の最も重い症状で、特に一度蜂に刺されて3年ほどの間は、蜂毒に対するIgE抗体というアレルギータンパクが体内で作られていて、次に刺された時にこのIgE抗体が即座に働いて急激に強いアレルギー反応が起こるのです。その場合はのどが詰まる前に早く救急車を呼んで、アドレナリン注射という薬で急いで治療しなければ、窒息死してしまう危険が高いのです。

 毎年日本中で20人ほどの方が蜂刺されによるアナフィラキシーショックで死亡されています。これは蛇や熊などの動物に襲われる被害の中で一番多い被害件数です。
 最近では自己注射用アドレナリンも処方できるようになったので、野山で作業をする仕事の方などは、一度蜂に刺された時にはこの自己注射を処方してもらい携帯しておくと急場をしのげる可能性があります。蜂の中でもススメバチは最も攻撃的ですが、アシナガバチやミツバチの蜂毒でもアナフィラキシーショックになる場合があります。クマバチは比較的おとなしく、滅多に人を刺さないそうです。

 また豆知識ですが、襲ってくる蜂はメスの「働きバチ」のみでオスには針がありません。これは蜂の針がメスの産卵管が発達したものだからです。スズメバチは春、冬眠から覚めた一匹の女王蜂が巣作りを始め産卵します。初めはメスの働き蜂ばかりが羽化して行き、皆で巣を大きくして行き翌年の女王蜂候補を育てます。次いでオスの蜂が羽化し、最後に嬢王蜂候補が羽化します。オスの蜂は女王蜂候補との交尾以外には何も働きません。巣作りやエサ集め、子育て、そして外敵への攻撃は全てメスの働き蜂がするのです。
 
 このように深い絆と秩序によって形成されたスズメバチの巣に知らずに近寄ることでスズメバチに襲われます。野山に行く際には、黒よりも白い服装で、香水等の強い香りを付けることは避けて、蜂の巣に近づかない様に十分注意し、蜂に刺された後に蕁麻疹と呼吸困難を感じた時には迷わず救急車を呼びましょう。


 (「くすぐる診療所」2015年9月号より改訂)

 

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