065.「がんとは何か?」-その2-「細胞とは」
今回は「がん」を知る上で重要な「細胞(さいぼう)」とは何か?というお話をします。
いまから350年ほど昔の1665年にイギリスの自然哲学者ロバート・フックは、顕微鏡でコルクを観察していた時に「細胞」の構造を見つけスケッチをしました。これが細胞の最初の報告といわれています。細胞は生命の最小単位と言われ、人間を始め動物も植物も、かび(真菌)も細菌も、地球上のほとんどの生き物は「細胞」という小さな袋が集まってできています。
ちなみに細胞は英語でcell(セル)といいますがこれは「小さな部屋」という意味です。細菌はたった1個の細胞でできていますが、きちんと自活し生きています。私達「ヒト」は細胞が約60兆個(最近では約37兆個とも推計されています)も集まって形づくられています。60兆個と言われてもピンと来ませんね。1mmの約100分の1しかない細胞も、60兆個を1列に並べると60万kmにもなります。これは地球1周が4万kmですから地球を15周する長さになります。
こんなにも多くの細胞でできている私達の体ですが、元々はお父さんの精子細胞1個とお母さんの卵子細胞1個が合わさって1個の受精卵細胞となり、この1つの受精卵細胞が2つへ、2つが4つへと倍々に細胞分裂を繰り返しながら今の私達の体ができているのです。
非常に不思議なのは、たった1つの受精卵細胞が分裂をするうちに、手や足、目や口、心臓や脳、胃や腸、肺や肝臓や腎臓、血液細胞や精子、卵子といった各臓器を形づくる細胞へと様々に変化して行くことです。しかもあらかじめ決められた通りに正確に色々な働きを持つ細胞へと変化して行きます。これを細胞の「分化(ぶんか)」と言います。
また色々な細胞に分化する能力を持ったおおもとの細胞を「幹細胞(かんさいぼう)」と言い、それに対してそれぞれの臓器に分化して実際の働きを担う細胞を「体細胞」と言います。また、子孫を作るための精子と卵子は「生殖細胞」と言う特殊な細胞で、次の子孫を作り親の特徴を伝える為の働きを持っています。
ここで次の疑問が出てきます。この様に私達が持つ多くの種類の細胞を正確に作りだし、その細胞をきちんと働かせる指令はどの様に出ているのでしょうか?この指令とは、ヒトはヒトらしく、カエルはカエルらしく、朝顔は朝顔らしい特徴をもった形が作られるための指令であり、またヒトでも眼の色や肌の色、足の長さから手の形まで1人1人が違う特徴を持って生まれるための指令です。その特徴は両親から譲り受けられることは昔から経験的にわかっていて「遺伝」という概念はありましたが、一体その遺伝現象を行っている物質、つまり「遺伝子(いでんし)」がどこにあり、何でできているのかは長年の科学の謎でした。
次回はこの「遺伝子」についてお話します。