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087.「看護師の心の深層」-感情労働と燃え尽き症候群-その1

 前回お話しした近代看護の礎(いしずえ)を築いたイギリスのフローレンス・ナイチンゲール女史は、5月12日が誕生日でした。そのため5月12日は世界中で「国際ナースデー」とされ、日本では「看護の日」と呼ばれて毎年各地でイベントが開催されています。老若男女全ての人に看護の心、「助け合いの心」を育むきっかけを啓蒙して、家庭でのケア、地域社会での助け合い、健康な人が病気の人を守る事の大切さを伝えて来ました。

 今年の看護の日には、全国自治体病院で働く看護師を対象とした調査結果が発表されました。それによると、驚くべき事に現職の看護師の約70%は看護師を辞めたいと考えている実態が明らかになりました。その理由としては、いわゆる「3K」=きつい、汚い、危険だけでなく、最近では「8K」(最新の高精細テレビみたいですが)=結婚できない、子供を自由に産めない、給料が安い、薬漬け(痛み止めや睡眠薬などの使用者が多いためです)、休暇なし、とも言われています。

 看護師は、患者さんの体位変換、排泄物の観察・計測・始末、長時間労働、夜間勤務など過酷な「肉体労働」ですし、高度な医療知識の元で医療機器を扱い、電子カルテを駆使しながらも患者さんの健康を損なうようなミスが許されないという高度な「頭脳労働」でもあります。

 そして採血や点滴ルートの確保、尿道カテーテル挿入や各種の検査など、熟練を要する「職人的技術労働」でもありながら、看護師の組織は上下関係や服装、髪型などの規律が非常に厳しい「管理社会」でもあります。

 そして最後に、患者さんの立場に立って患者さんの気持ち、悩み、過去現在を受け入れ、病気である患者さんの「負」の感情、つまり怒りや悲しみ、無気力、自殺願望、孤立無援感、虚無感、痛み、体動困難、食事・移動・排泄・入浴・睡眠など生活の各場面での「不自由さ、社会的な偏見のレッテル(スティグマ=烙印)」を共感的な態度で援助し続けなければならないという「感情労働」の側面を非常に強く持っています。これが恐らく「肉体労働」や「頭脳労働」以上に看護師の仕事の中でも最も疲れる原因ではないかと考えられるのです。そして最終的に「辞めたい」と考えてしまう、いわゆる「燃え尽き症候群」に陥る危険があるのです。

 ではどうすればこの「燃え尽き症候群」を回避することができるのでしょうか? 次回は看護師をはじめとする「感情労働」を行う多種多様な「対人的なサービス」を行う人々の仕事の辛さの原因と、その辛さを和らげる方法について更に考えたいと思います。

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