115.「栄養のお話し」〜その3「3つの脂肪のお話し」
現在、二十四節気(にじゅうしせっき)では「秋分」が近くなり「白露」の季節です。窓の外を見れば燕の子供たちが飛行の訓練を一生懸命しています。そういえば七十二候(しちじゅうにこう)では「玄鳥去(つばめさる)」の季節になっていました。
さて前回は、若者(50代まで)は脂肪太りしないために運動が大切、高齢者は筋肉量を維持するためにタンパク質摂取とやはり運動が大切という話でした。単に体重やBMIだけでなく、体脂肪と筋肉の割合いが重要なのです。今回は、「脂肪」についてお話します。
脂肪は大きく3つの意味で使われていて、区別が必要です。1つ目は体についている脂肪で「体脂肪」と言います。2つ目は食べ物の中の脂肪で、これは「脂質(ししつ)」と呼びます。3つ目は血液中の脂肪で、LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロール、中性脂肪などがあります。
おそらく多くの人は単純に、食べ物中の脂質を食べた分だけ、血液中の脂質が増えて、体脂肪が増えると考えているのではないでしょうか?しかし、その考えはちょっと違います。実際はそんなに単純ではありません。食べ物のうち、脂質だけでなく、炭水化物(糖質)でも、たんぱく質でも、アルコールでも、エネルギーとして使われなかった余ったエネルギーの分は全て「体脂肪」となって蓄えられるのです。なので、ご飯を食べすぎる、麺類を食べすぎる、など炭水化物(糖質)の摂り過ぎや肉類やアルコールの摂り過ぎでも「体脂肪」は増えてしまいます。
また、食事中の脂質にもさらに細かい種類があり、そのうち、「飽和脂肪酸」と、「食事中コレステロール」が、「血液中のコレステロール」を増加させ、「多価不飽和脂肪酸」は逆に血液中のコレステロールを減少させます。
つまり、バターや牛脂、ラード(豚脂)は、飽和脂肪酸を多く含む食品で、血液中のコレステロールを上昇させますが、ひまわり油(高リノール酸製精油)や菜種油(キャノーラ油を含む)、大豆油など、多価不飽和脂肪酸を多く含む、私たちが通常家庭で料理に使用する油(サラダ油など)は、むしろ血中コレステロールを下げてくれます。なので、まず肥満(体脂肪)を気にする人は食事全体のエネルギー量(カロリー)の摂りすぎに注意しましょう。体脂肪がどんどん増えている時はエネルギー(カロリー)を摂り過ぎているのです。
また、血液検査での中性脂肪の高値は、脂質だけでなく炭水化物(糖質)、たんぱく質、アルコールの合計を取りすぎています。血液検査のLDLコレステロール高値は、「飽和脂肪酸」と「食品中コレステロール」の両方が原因となります。
最近は食品中コレステロールの多い「卵類」は気をつけて摂りすぎない人が増えていますが、飽和脂肪酸を多く含む「肉類」と「乳類」はむしろ消費量が以前より増えており、これが現在の主な高LDLコレステロール血症の原因となっている可能性があります。LDLコレステロールが高い人は今一度ご自身の食事の中の「卵類」だけでなく「肉類」「乳類」の摂り過ぎにも注意してみて下さい。
「くすぐる診療所」 (2021/09/20) No.115. 2021年10月号掲載