124.「食と健康のリテラシーとは?」食と健康の話〜その3
フランスの美食家サヴァラン「あなたが普段食べているものであなたがどんな人であるか当てて見せよう。」 ドイツの哲学者フォイエルバッハ「人間とはその人が食べたものである。」
〜漢方医学には「薬食同源(やくしょくどうげん)」という言葉があります。これは日常からの良い食事は病気を予防し健康を維持するため薬と同じだという考え方です。最近は「医食(いしょく)同源」とも言いますが、古代中国から食の医者「食医」は医者の中で最高の位が与えられてきました。
しかし私も含め現代人は、仕事と生活、スマホやパソコンを見ることなどに時間を費し、「紺屋の白袴(こうやのしろばかま)」「医者の不養生(ぶようじょう)」のように、食事や運動、睡眠の時間を削って健康を犠牲にし、肉体的・精神的ストレスをため込み、眼精疲労・頭痛・肩こり・腰痛から将来は高血圧・糖尿病・腎臓病・心臓病・脳卒中・がんなどの生活習慣病に至る生活を送りがちです。最近LOHASロハスな生活やSDGsという言葉が有名になって来ましたが、そのどちらにもSustainability=持続可能性の”S”という単語が入っていて、自分自身と地球環境全体が永続する様な生活が良いという考えが主流になりつつあります。
「はなちゃんのみそ汁」の安武はなさんは、5歳の時に乳がんの全身転移でお母さんを亡くされましたが、小学生の作文の最後にこう綴っています。「私は、ママから教えてもらったみそ汁作りをがんばっています。〜 私は毎朝、みそ汁とご飯を食べているから、かぜをひかないし、重い病気にもなりません。ママ、私をうんでくれてありがとう。自分の命は自分で守る。これがママとの約束です。」
これは、私がこのコラムを書き始めた最初の思い「みなさんに『自分の健康は自分で守る』ことを考えて欲しい。」そのもので、お母さんが娘のはなさんのために考えて、考えて抜いて、最後に残した最高のプレゼントでした。お母さんは声楽家であると共に、タカコナカムラさんの食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「ホールフード」の実践者であり、食と生活で自立することを教えて亡くなったのです。
しかし食と健康の知識や活用法=リテラシーを得ることは非常に重要ですがまた困難でもあります。まだわかっていないことが多すぎるのです。「リテラシー」という言葉は最近広く使われ始めた「ある業界の情報を収集し、その情報の正否が判断でき、活用できる能力」という意味です。昔は農家ではその地方に合った特産の地方野菜を選抜して作り、自家採種と言って、自分で種を取ってまた翌年同じ品種の野菜を作っていました。これらその土地土地に根付いた野菜を「固定種」と言います。
固定種は味が美味しく多様性に富むために病害虫に強いというメリットの反面、形や大きさが決して均一で揃(そろ)ったものではなく収穫に時間がかかり収穫量も今ほどではありませんでした。そのうち、高度成長期となり工業製品と同様に野菜も短期間で栽培でき形や大きさが均一の商品が市場では好まれたため、F1種(First filial generation;一代雑種)の野菜ばかりがスーパーに並ぶ様になりました。
私が子供の頃にあった、スーパーの片隅で不揃いの地元野菜を秤(はかり)売りし、威勢よく紙袋に入れて売ってくれた八百屋さんをふと思い出しました。天井からぶら下がった長いゴムにカゴがぶら下がっていて、その中にお釣りの小銭が沢山入っていた様な八百屋さんですが現在では見なくなりました。
現在スーパーに並んでいる野菜は、大根でも人参でも玉ねぎでもみんな同じ様に形・大きさがそろっていて同じ値段である事が当たり前だと思っていませんか?青首大根では幅8cm長さ38cmという様に均一化し、2ヶ月で出荷できる様に成長が早くなっています。このF1種というのは、固定種とは異なり、雄性不稔(ゆうせいふねん)性という性質を利用して、花粉=雄蕊(おしべ)を持たない母親系統と、品種がなるべく遠く離れた父親系統の2種類の親から作られます。そうすると「メンデルの法則」に従って優性(顕性)形質だけが1代目には出るのです。
そしてもう一つ「雑種強勢の法則」で交雑種ではより生育が早く生育量が多いという性質が合わさり、形や大きさが均一でより早く大きく生育する(しかし多様性が少ないため病害虫に弱い)F1種野菜が一斉に大量に出来上がり売られるのです。しかしその次の2代目の種で野菜を作っても、劣性(不顕性)の性質が出てくるために不揃いとなり同じ商品にならず、農家はまた次の年にも新たな「F1種」を買う事になってしまいました。
さらにこの「雄性不稔」の性質は、細胞の中のミトコンドリアというエネルギーを産生する最も大切な器官に異常があるために生じる現象だと言う事がわかってきました。これと現在の男性に「無精子症」が多いという事実に関係が有るのか?無いのか?これはいまだに明らかにされていません。
この様な情報をご存知の方がどれだけおられたでしょうか?特に農家の方が知っておられても、医療関係者はほとんど知らないのではないでしょうか?「ヨーグルトを食べると良いか?」「納豆が良いか?」本当のことは分かっていないことだらけです。日頃からアンテナを張って食と健康の正しい情報得て行くことが「リテラシー」だと言えるのです。金儲けのための「健康」や「ダイエット」の誇大広告に惑わされないようにしましょうね。
「くすぐる診療所」 (2022/06/20) No.124. 2022年7月号掲載