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127.『G7サミットと「SDGs」「LGBTQ+」』

 このコラムを書いている2023年5月下旬、前回の2016年5月の伊勢志摩サミットから7年経ち、1巡して被爆地広島で「G7サミット」が開催されています。G7サミットは毎年持ち回りで議長国において開催される「主要国首脳会議」のことで、Gはグループ:GroupのG、7は7カ国で構成されての名称です。過去にはロシアも加わり8カ国のG8となったこともありました。

 「世界の経済問題について毎年各国の首脳が話し合う」というのが1975年設立当初の目的で、時代を経て今回はコロナ禍後の世界、国際秩序の根幹を揺るがすロシアのウクライナ侵攻後の世界で、「武力ではなく、法に基づく国際秩序の堅持」、「グローバル・サウス(南半球に多く存在する経済的発展の新興国・発展途上国)と呼ばれる国々への関与の強化」が最重要課題とされました。

 そんな中で、今回の議長国日本では、SDGs(持続可能な目標)の達成に向けて、人権問題やジェンダー(生物学的な性別に対して、「社会的・文化的な性別」)差別問題を重視しています。というのも日本は歴史的に性的問題に対して目を背けて来た経緯があり、現在「ジェンダーギャップ報告書」では性的差別の取り組みでは世界116位とG7で最下位であり、唯一性的マイノリティー(性的少数派)に対する「同性婚やパートナーシップ制度」などの制度が無い、この分野では最も遅れた先進国だと国際的にも非難を受けていることが根底にあります。

 最近私が観た映画でNETFLIXでも話題になっている、草彅剛さん主演映画『ミッドナイトスワン』は、かなり強烈な性的描写や残酷なシーンがあるにも関わらずR指定されていない映画で、恐らく全世代に観て欲しいという思いが込められているのでしょう。T;トランスジェンダー(体の性別と性の自己認識の不一致=男性の体で心は女性またはその逆)である性的マイノリティーの主人公(草彅剛)が、ネグレクト(育児放棄)を受けた少女を一時的に預かり、徐々に母性が芽生えてゆく過程を、非常に美しいクラシックバレエのシーンと母性愛に対して、「LGBTQ+」「ネグレクト」への社会の無理解と差別という目を背けたくなる残酷な現実、この全く相反する2つの要素が同時に存在し交錯する世界が非常にリアリティー(現実味)を持って描かれており、深く心に染み入る映画でした。

 一方、アカデミー賞受賞映画『ドライブ・マイカー』で一躍脚光を浴びた三浦透子さんの最近の主演映画『そばかす』は、「A;アセクシャル=異性にも同性にも恋愛感情を抱けない」女性を描いた静かな映画です。現在では、従来から言われていたLGBT(L;レズビアン、G;ゲイ、B;バイセクシャル、T;トランスジェンダー)という分類だけでは性的マイノリティーを包括できないために、「LGBTQIAPK」と、どんどん分類が加えられて行きましたが、それでもまだその枠に収まりきらず「LGBTQ+」という表現が出て来たのです。「Q+」はその他数多くの分類があることを示しています。いずれの表現もこの「性的マイノリティーを総合した表現」だと言えます。

 最新の国際疾病分類ICD-11では、これまで精神疾患に分類されて来た「性同一性障害」を精神疾患では無いと、初めて定義・分類を改訂し、医学的・科学的にも性的マイノリティーに対する理解は変化し進んできています。この様な背景の中で、首相秘書官による性的マイノリティーに対する差別的発言が問題となり、それをきっかけに今回のG7に向けて、初めて国会の場に「性的マイノリティーの理解増進のための法案」が提出されることとなったのです。しかし十分な議論もないままに法案提出を押し切ったことは乱暴だと非難する声も多く、国として真剣に考えることがようやく始まったばかりです。

 しかし話し合いが始まったこと自体は一定評価できる話ではないでしょうか?性の問題だけでなく、一人一人の考え方、指向、表現の仕方が様々に異なること(ダイバーシティ;多様性)、それを認め合える社会を目指すことが、最終的にはあらゆる不寛容(認めない・受け入れない狭い心)による争いからの脱却にもつながるということは、誰しもが気づき始めているのではないでしょうか?そしてその不寛容さは自分とは違う人への無理解から来ており、まずお互いが理解し合う努力をすることが平和な世界のSDGs=持続可能な世界の実現の為には最も基本的で重要なことではないでしょうか?


「くすぐる診療所」 (2023/05/20) No.127. 2023年06月号掲載

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