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129.「目のお話」 その2〜「白内障」「緑内障」「加齢黄斑変性」と老化の原因「組織RAS」と「酸化ストレス」

 高齢者に多い目の病気、「白内障」は水晶体の透明性を保っているクリスタリンというタンパク質が混濁する病気で、これは酸化を防止している「グルタチオン」という物質が減少したり、タンパク質の元となるアミノ酸の代謝異常により「キノイド物質」というものが増えることによります。

 「緑内障」は透明で目の表面にある角膜とその奥の水晶体の間を流れる「房水ぼうすい」という水の排泄が悪くなりこの房水の圧力=眼圧が高くなり目の神経を障害する病気です。

 「(滲出型)加齢黄斑変性」は網膜の中心部で最も視力に重要な「黄斑おうはん」部を中心に老廃物の貯留→脈絡膜新生血管の発生→網膜下出血により視神経が障害される病気です。加齢による体の変化・病気には、がん・糖尿病・脳血管障害・動脈硬化・薄毛などと共に、目の病気としては、ドライアイ・白内障・緑内障・加齢黄斑変性・糖尿病性網膜症・老視などが挙げられます。

 まず第一に、メタボリック・シンドロームに伴って起こってくる目の病気を見てみましょう。メタボリック・シンドロームとは、高血圧・耐糖能異常(高血糖・糖尿病)・脂質異常に内臓肥満を伴った状態で、これにより全身のレニン(R)・アンギオテンシン(A)系(Systen)=RASが活性化されます。さらにRASというのは、循環RASと組織RASに分けられ、循環RASは生物が海から陸へと進化する過程で塩分と水を細胞外液として体内に保持するために発達したと考えられ、塩分を体内に保持して主に血圧を上昇させます。

 組織 RASは細胞の分化と増殖・炎症・線維化など組織の修復(リモデリング)という生理的な役割を担ってきたと考えられ、反面では組織での微小な炎症と繊維化による組織障害・老化を引き起こします。

 最近はこの血管RASを抑える治療は血圧の治療薬(ACE阻害薬やARB)として既に実際の医療の現場で使われていますが、組織RASを抑える治療薬はまだ本格的にはできていません。また加齢による目や他の病気を引き起こす原因として「活性酸素」による「酸化ストレス」というものが注目されています。体のあらゆる細胞の中にはミトコンドリアという細胞内小器官がありますが、これは酸素を利用してエネルギーの元となるATPを産生しています。この際に必ず活性酸素というものも発生してしまいます。活性酸素は細胞の遺伝子情報を担っているDNAや、体のあらゆるものの部品・素材となるタンパク質を損傷します。そのDNAやタンパク質の損傷がたくさん蓄積してくるとその細胞は死んでゆき(アポトーシス)その臓器の働きがだんだんと悪くなり働きが低下して行きます。これが老化となるのです。

 このように、活性酸素による酸化ストレスで起こる目の病気としては「白内障」「緑内障」「加齢黄斑変性」などが挙げられています。いずれも活性酸素が悪さをしていることはわかっているのですが、活性酸素を取り除く抗酸化ビタミン類:βカロテン(ビタミンAになる)・ビタミンC・ビタミンEの投与によって発症や進行を予防できる可能性が研究されています。

 しかし、喫煙者がβカロテンやビタミンAを摂ると逆に肺がんになりやすくなったり、運動後に筋肉内に増える抗酸化酵素はビタミンCを摂るとかえって減ってしまうなど、ビタミンと言っても摂取の組み合わせやタイミングによっては体に悪影響を及ぼすこともあり、さらなる研究結果が待たれているところです。


「くすぐる診療所」 (2023/07/24) No.129. 2023年08月号掲載

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