023.小閑小話-「医療における東洋と西洋」
昨年11月宮津市で、細川忠興・ガラシャ夫人生誕450周年記念イベントの一環として私の小学校からの親友である平野一郎さんが作曲・監修を務めたピアノとチェロのコンサート「祈りのガラシャ」が開かれました。私も聴きに行ったのですが、丹後地方を題材とした彼の楽曲が西洋の楽器で演奏され、丹後の深い森や海辺の情景が見事に表現されていて非常に感動し圧倒されました。
音楽や絵画の世界で、東洋と西洋が互いに触発し融和してきた歴史があるように、医療の分野でも東洋と西洋の融和の歴史があります。
今から約2千年前の中国では漢方医学の基礎が既に出来上がっており、「傷寒論」という医学書の中には現在でも風邪の特効薬として用いる「葛根湯(かっこんとう)」や「麻黄湯(まおうとう)」と言った処方が記載されていました。
方や西洋では約500年ほど前に解剖学が興(おこ)りそこから外科手術が発達し、約400年前の顕微鏡の発明で細菌学が発達してきました。江戸時代中期の日本では漢方(東洋医学)と蘭学(西洋医学)が融合し、その極みとして漢方と蘭学の両方を修めた華岡青洲(はなおかせいしゅう)が世界で初めて全身麻酔を使った乳がん手術を成功させたのでした。
しかし江戸時代に全盛を極めた漢方が明治以降閉め出されたため、最近までの日本の医療はほぼ西洋医学一辺倒となっていました。西洋医学は分析的で科学的、公衆衛生的な医学のため、多数の患者さんを単一の方法で治療する事に威力を発揮します。外科学や感染症治療、ワクチンによる予防などで非常に有力です。
それに対し東洋医学は個々の患者さんの体質や症状に合わせたきめ細かな対処が特徴で、現在では風邪治療の対症療法を始め、更年期障害、様々な不定愁訴に対する処方など、西洋医学では異常が見つからないのに症状を訴えるような患者さんに対しても何らかの治療法が提供できることが多く、いわば個々の患者さんに合ったオーダーメイド治療が行えることが身上です。
このように西洋医学と東洋医学を上手く融和し使うことで一層幅広い医療が行えるようになります。私も最近漢方を再評価して積極的に治療に取り入れるようにしています。漢方薬により西洋医学では治せなかった症状が改善することを目の当たりにする事も実際に多くあり、「西洋医学と東洋医学の両方が使える日本の医療は恵まれているなあ」と実感することが多くなってきました。
(「くすぐる診療所」2014年2月号より改訂)