107.「富岳」がコロナ感染シミュレーションで示した事とは?
2020年6月、コロナの第1波がやや沈静化した頃、日本の理化学研究所(=理研)の数あるセンターの1つ、計算科学研究センター(神戸市ポートアイランド)のスーパーコンピューター=略してスパコンの「富岳(ふがく)」(=富士山の別名)がスパコンの性能を競う複数の世界ランキングで1位になったと報道されました。
先代の「京(けい)」は1秒間に1京回(1兆の1万倍;0が16個付く単位)の計算スピードを持つ事から名付けられましたが、2009年当時の民主党政権時代に事業仕分けで「世界2位じゃダメですか?」とつっこまれ予算が削減される中、2011年の計算速度の世界ランキングで1位を獲得したことが話題になりました。
富岳は京の40倍の計算スピードを持つだけでなく、様々な研究に役立つソフトウエアを京の100倍の能力で扱うことができると言われています。その性能とは、これまで「京で1年間かかっていた結果が数日で出る。」というスピードで非常に実用的です。今後は医療や創薬、生命科学、気象、地震、人工知能といった様々な分野で活用され、経済発展と社会的課題の解決に貢献すると期待されています。
この富岳ですが、コロナの感染対策に役立てようと試験運用の開始当初(2020年3月)からすでに活用されており、これまでにも様々なシミュレーション(模擬実験)結果が発表されています。理研の計算科学研究センター(R-CCS)のホームページ(トップ › 「富岳」について › 【特集】新型コロナウイルスの克服に向けて › 実施している研究課題と成果 › 室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策)を見てみましょう。不織布・ウレタン・布マスクの性能の違いや、学校やオフィス・四人がけテーブル、タクシーや電車・航空機、コンサートホールやカラオケボックス・病室内・野外等での換気状況や飛沫の広がり方などのアニメーションを誰でも閲覧できます。
例として、人の口から出される「つば=飛沫(ひまつ)」の中の、比較的「大きな飛沫」と小さな「エアロゾル」に色分けして周りにどの様に広がるかというシミュレーションでは、大きな飛沫は1メートル以内に落ちますがエアロゾルは空気中を漂うことが見て取れます。
マスクの種類では一般的に布やウレタンは20-30%程度と低いフィルター捕集能力ですが、不織布では70%程度であること、さらに細かく見ると布でもYシャツ生地を2-3枚重ねたり、ガーゼの捕集能力はウレタンを上回り不織布に匹敵するということが示されています。またマスクをしていてもワキ漏れがあったり、「エアロゾル」の吐き出しや吸い込みに関してはマスクの効果は限定的なことや、湿度が低いほどエアロゾルがより多く空中を漂うことも示されており、それらを合わせて考えると「冬場に暖房で乾燥して換気の悪い室内では、マスクをしていてもエアロゾルによる空気感染が心配で、マスクに加えて換気や加湿も含めた感染対策が必要になる。」という知識を与えてくれます。
ここ最近の爆発的感染増加との関連性を探る手がかりになるかも知れません。
このように「富岳」は私たちの目の前の疑問に一つずつ小さな答えを示してくれているのです。
「くすぐる診療所」 (2021/01/20) No.107. 2021年02月号掲載