036.「感染症の話」その4
今回は細菌よりも更に小さな病原体「ウイルス」についてお話します。
ウイルスは約10ナノメートルと非常に小さく(1メートルの1億=100,000,000分の1)、普通の光学顕微鏡では見えず、電子顕微鏡という大がかりな器械で初めて見ることができます。
更にウイルスは細胞の構造を持たないため自分で増えることが出来ません。ヒトなど他の生物の細胞の中に侵入して、その細胞の中の栄養を利用して増えて行きます。ちょうど細胞に寄生した「やどかり」の様なものです。
そのためウイルスは寄生している主=宿主(しゅくしゅ)が死んでしまうと自分も生きて行けなくなるため、2種類の生き伸びる戦略を取っています。1つ目は症状が強く目立ちやすいけれど、感染力も強いタイプです。これらのウイルスは症状が派手に出るため宿主の免疫細胞に早々に気付かれ攻撃されてしまいます。そのため免疫細胞と戦闘状態になる前に次々と別の宿主に感染して広がって行くのです。名付けて「過激派、無差別拡散タイプ」です。
この手のウイルスには、「かぜ」の原因ウイルスのライノウイルスやコロナウイルス、またインフルエンザウイルスや胃腸炎のノロウイルス、近年話題のエボラ出血熱ウイルスなどが挙げられます。
2つ目は症状がほとんど出ず、感染力が弱いタイプです。宿主の細胞の中でおとなしく何年も隠れており、宿主に気付かれない様にゆっくりと細胞や臓器を悪化させ、たまたま血液などを介して人知れず他の宿主に感染する「穏健派、狙い撃ち感染タイプ」です。この手のウイルスには、エイズウイルスやB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、成人T細胞白血病ウイルスなどが挙げられます。非常に小さな寄生体ですが、ウイルスは巧みな戦略をとりつつ脈々と生き延びて来ているのです。
(「くすぐる診療所」2015年3月号より改訂)